私の世界・棋士の面白い話―奇人加藤一二三九段の魅力①
加藤名人は二十歳の若さで初めて大山名人挑戦者になってしまうのです。将棋のプロは、四段になって一人前となります。四段のC2クラスから順位戦に入り昇級戦を戦って、戦績の上位僅か2・3名しか昇級・昇段しないのです。加藤名人は四段になってから、一度もミスをしないで昇級・昇段を毎年繰り返し、5年の最短でA級八段に昇りつめたのです。そして、A級八段になった2年目に最上位の成績を収めて、名人挑戦者になると云う快挙を成し遂げたのです。少し表現が古いのですが、確か「神武以来の大天才」と持て囃されたのです。
これも私の想像でしかないのですが、もしかしたら、大山名人は若い挑戦者の加藤八段をなめたと云うか、そのもてように嫉妬して、少しスタンドプレー・芸を見せようとして、その実力を見誤ったのではないかと思うのです。番外戦なのか、相手の実力を測るためか少なくとも1局は、力を落として戦って、いわばわざと負けたように思うのです。先に云ったように、棋士の力は紙一重です。大山名人といえども1勝のハンディキャップを与えて加藤八段を下すのは並大抵ではないのです。
もう一つ大山名人が見誤ったのは加藤八段の価値観です。彼はプロの上位棋士でたぶん唯一の敬虔なクリスチャンなのです。彼の功名心や望みは神とともにあるのですから、勝ちそうになると「ふるえ」どころか、神の恩恵に感謝してますます強くなると云う、異次元の価値観の持ち主です。
ただ、大山名人のものすごいのは、ハンデを与えたのに名人にさせなかったのです
加藤名人の対局中の変人ぶりは、まず対局に夢中になっている自分に冷静さを取り戻そうとするのか、席をはずした廊下で賛美歌を歌うことです。そしてなぜか妙にネクタイが長く膝の先まで届くこと、自分が有利になり勝てると思うとかならず緊張のあまり思わず咳き込んだり、長いネクタイをくちゃくちゃ締め直し始めるのです。
むしろ、自分のほうが有利に進んでいると思っているとき、例の加藤元名人の癖が始まるのです。「えっ、こっちが悪いの」。彼ほどの実力者で、うそのつけないこと、クリスチャンでブラフを使うことがないことを知っている相手の棋士は嫌になるのです。結果、大抵負けてしまうのです
無作為の作為 作為の無作為 戦法です。
もう一つ加藤元名人の特に八段の頃の特徴がありまして、長考派なのです。それも並みの長考ではありません、ほんの数手しか進んでいない前半の局面で湯水のごとく時間を使うのです、彼の辞書には時間配分と云う言葉が無いのです。順位戦の対局は6時間の持ち時間で、それが過ぎると1分の秒読みとなります。一手に5時間以上も掛けて考えるものですから、10手も進んでいないのに秒読みに入ることもあるのです。すごいことに、延々と秒読みで打ち続けて勝ってしまうことが多いのです。もう少し時間配分を考えて将棋をさしたら、どんなに強くなるのだろうと思われましたが彼は聞き入れませんでした。対戦相手はそんな彼を見て、もしかしてもう王を詰ますとこまで考えているのだろうかと震撼するのです。
面白いことにいつも時間に追われていますから、NHK杯戦のような持ち時間の少ない棋戦も得意で、何度も優勝しています。
このあいだ、加藤名人が家の周りで野良猫に餌をやるので、増えて困っている近所の住人に裁判を起こされ、負けて二百何十万かの慰謝料を言い渡されたのです。「団地の敷地内では餌をやってはいけない」と裁判長に言い渡されて、「かわいそうなので、これからは敷地の外でえさをやります。」と臆目も無くテレビのインタビューに答える加藤名人がいました。笑っちゃうほど敬愛すべき非常識です。
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