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石油採掘に水圧破砕(フラッキング)技術を採用するようになると、「2017年までにアメリカがサウジアラビアを抜いて世界最大の産油国となる」というのです。
水圧破砕(フラッキング)とは、正式名称を“ハイドロリック・フラクチャリング”というものだそうです。(下にフラクチャリングを説明)
ただ、「高い圧力を加えて地下の油ガス層(岩石層)に割れ目(フラクチャー)を作り」や「酸を岩石の破砕圧力以上の圧力で油層に圧入し岩石の破砕を起こすと同時に岩石を溶解」というのは、素人目にはかなりヤバイと思われるもので、地震や地下水汚染が心配です。
この掘削技術の改良は、アメリカだけではなく中国や日本も多大の恩恵を受け、将来の国際的なエネルギー需給バランスを変えるはずです。
中国が深刻なのは採掘に必要な水が無いという問題です。採掘に使う河川の水は農業や工業、生活用水と取り合いになるのです。
アメリカも今年の気候変動の影響で旱魃になり、農業に打撃を受けたばかりで水が足りていません。
将来、エネルーギーと環境問題は結局、水の問題になります。
<フラクチャリング>
高圧ポンプを用いて坑井内に高い圧力を加えて地下の油ガス層に割れ目(フラクチャー)を作り、非常に浸透性の高いチャンネル(油・ガスの通り道)を形成することによって,生産性障害からの回復 および 低浸透率層の流動性改善を図り、生産能力を向上させることを目的とした坑井刺激法の一つで、水圧破砕あるいは 弾性破砕ともいいます。
手法としては、フラクチャーの中に砂などの支持材を充てん(填)することによりその閉そく(塞)を防ぐハイドロリック・フラクチャリングと酸を岩石の破砕圧力以上の圧力で油層に圧入し岩石の破砕を起こすと同時に岩石を溶解し油ガス層の浸透率を向上させるアシッド・フラクチャリングがあります。一般的に、硬質(ヤング率5MMpsi以上)で酸に対する溶解度が高い(70%以上)炭酸塩岩層には、作業費用の安価なアシッド・フラクチャリングが有効と云われています。
(独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構のホームページより)
『米が最大産油国、世界の需給変化
(November 15, 2012)
国際エネルギー機関(IEA)は、水圧破砕(フラッキング)が世界のエネルギー情勢を一変させ、2017年までにアメリカがサウジアラビアを抜いて世界最大の産油国となるとの見通しを明らかにした。さらにアメリカは、ガス生産でも3年以内にロシアを上回り、世界最大の生産国の座に着くとも予測されている。
どちらも数年前までは誰もが想定できなかった展開かもしれない。パリに事務局を置き、エネルギーの安全保障を担うIEAによれば、アメリカの「エネルギー復興(Energy Renaissance)」は将来の供給マップを大きく変化させているという。シェールガスを採掘する水圧破砕や深海油田の採掘といった技術は議論を呼んでいるが、アメリカの再躍進を後押ししていることは間違いない。さらにエネルギー業界が、豊富で未開拓の天然ガスや石油の産地に手を伸ばす道筋を示した。今やペンシルバニア州やノースダコタ州は、新エネルギーフロンティアの地として注目を集めている。
アメリカにとっての最初の目標は、約40年間、7人の大統領が苦戦を強いられてきたエネルギー自給の確立だ。現在、総エネルギー需要の約20%を輸入に依存している同国は、業界のバイブル、IEAの年次報告書『世界エネルギー展望(World Energy Outlook)』によると、2035年までに自給態勢をほぼ確立する。2030年までには、スチーム補助重力排油法という新技術の開発に沸くカナダ、アルバータ州のオイルサンドも加わり、北米全体で石油の純輸出地域が形成されるという。
「北米は、石油・ガス生産の抜本的な変革の最前線に位置しており、世界の全地域に影響を与えるだろう」と、マリア・ファン・デル・フーフェン(Maria van der Hoeven)IEA事務局長は語る。
だがあまりにも急な展開に、各国政府の対応は不十分だとの声も上がっている。
マサチューセッツ工科大学(MIT)のエネルギー持続可能性チャレンジ・プログラム(Energy Sustainability Challenge Program)の最高責任者、フランシス・オサリバン(Francis O'Sullivan)氏は、自国の政策立案者に疑問の目を向ける。「彼らは、未開拓の産油地における最近の開発ブームがどういう事態を引き起こすか、わかっているのだろうか。さらに、国内の石油資源の増大という観点からの意味合い、高まるエネルギー安全保障の潜在性を十分に考慮しているとは思えない」。
◆サウジアラビアを追い抜く
IEAのチーフ・エコノミストで報告書の主著者のファティ・ビロル(Fatih Birol)氏は、ロンドンで開かれた記者会見の場で、「アメリカの石油輸入量は、1日あたり1000万バレルから400万バレルへと減少傾向にある」と説明。一方、バイオ燃料などを含む国内生産の増加は、大幅な減少分のわずか55%を賄うにすぎないと同氏は続ける。残りの45%は、乗用車やトラックに対して連邦政府が定める燃費基準の厳格化の結果だという。
IEAは、2011年のアメリカの石油生産量1日あたり810万バレルから、2020年には1110万バレルにまで達する一方、サウジアラビアの生産量は1110万バレルから1060万バレルへ減少すると予測している。また、2025年にはアメリカは1日あたり1090万バレルに減少するが、サウジアラビアは同1080万バレルの増加に留まるという。
天然ガスはさらに劇的な変化となる。アメリカの天然ガス生産量は、2010年の604bcm(10億立方メートル)から2015年までには679bcmにまで増加すると予測されている。ロシアでも同様に増加すると見られるが、同時期までには675bcmが限界とされ、生産量トップの地位を奪取するには十分だ。2020年には、アメリカが747bcm、ロシアは704bcmと、両国の差は一層顕著になると見られる。この時点でアメリカは天然ガスの純輸出国になるだろうと報告書には記されている。
◆どの国もエネルギー問題を懸念
「世界のエネルギーを巡る状況は急速に変化し、主役となる国も資源も流動化している」とIEA事務局長ファン・デル・フーフェン氏は述べる。「北米での展開が世界中に影響を与えるのは間違いない。どの国もエネルギー問題に不安を抱えている」。
つまり、アメリカがエネルギーを自給できるようになれば、消費者の胃が痛くなるような国際石油市場の価格変動に左右されないで済む。また、アメリカ産の石油は、需要が急拡大している他の国際市場に注がれることになる。
実際に、アメリカでは低下している石油の対外依存度は、逆にアジアでは大幅に上昇している。報告書によると、2035年には中東の石油輸出量の9割がアジア向けになるという。アジア諸国は戦略的な石油輸送ルートを確保するため、さらなる投資が必要になるだろう。
また、エネルギー供給の立役者の交代が、天然ガス価格に大きな差をもたらしている。数年前は国際価格に地域格差はほとんどなかっが、現在ではヨーロッパの価格はアメリカの5倍、アジアはアメリカの8倍にも高騰している。ただし、「輸出量が増えれば、アメリカ以外の価格も下落するだろう」とファン・デル・フーフェン氏は予想している。
◆需要は引き続き拡大
世界全体のエネルギー需要は、2010年の123億8000万toe(石油換算トン)から2035年には167億3000万toeに上昇すると予想されている。中国、インド、中東の生活水準の向上が、3割に及ぶ増加分の主な要因だ。発展途上国が全世界の需要量に占める割合は、2010年の55%から2035年には65%に高まると予想され、その中で中国の需要は60%増加すると報告書は述べている。
一方、経済協力開発機構(OECD)に加盟する先進国のエネルギー需要は、基本的には現状と変わらないだろうとIEAは見ている。石炭や石油の消費量は、現在の57%から42%にまで低減する見込みだ。
IEAは、エネルギー効率の改善に後ろ向きな各国政府に対し、懸念を表明した。改善の余地を残す経済大国の3分の2が、現状維持に安住している。効率が向上すれば、生活水準を下げなくても、2035年までのエネルギー需要の伸びは半減するだろうとIEAは指摘している。
化石燃料需要の絶対量は2035年まで増え続けるが、エネルギーミックスに占める割合は81%から75%にまで減少すると予想される。一方、世界の石油需要は、1日あたり2011年の8740万バレルから2035年には9970万バレルにまで増加する見通しで、中国だけでその半分を占める。
同じ2035年には、天然ガスの世界需要が50%増加して5兆立方メートルに達する見通しだ。OECD加盟国内では、天然ガスは発電用燃料として石炭に取って代わっている。アメリカの場合、石炭による発電量はわずか数年で50%から32%に減少した。アメリカ、ヨーロッパ、日本の石炭使用量は減り続けるものの、中国とインドでは増えるため、石炭の全体的な需要は引き続き拡大し、2035年には21%増となる。
他方、原子力はOECD加盟国内でもドイツや日本など一部の国で、2011年の福島第一事故の影響を受け原発を停止している。しかし、中国、韓国、ロシアでは逆に利用が増えているため、原子力発電量が世界全体の発電量に占める割合は2035年までに12%になるとしている。
IEAによると、再生可能エネルギーによる発電は2010年の20%から2035年までに31%に拡大する見込みで、OECD加盟国内では風力発電が、非加盟国では水力発電がクリーンエネルギーの主力となっている。バイオ燃料をはじめ、再生可能エネルギーの需要は政府の助成金に大きく依存していると報告書は指摘している。2011年の助成金は総額880億ドル(約7兆円)で前年比24%増だった。
世界の総電力需要は、2035年までに70%以上増加し、3万2000テラワット時に達する勢いである。その大半がOECD非加盟国によるもので、中国とインドだけで半分を占める。電気料金は2035年まで15%の値上げが予想されるが、一部の地域ではさらに上昇する可能性がある。アメリカの場合、2035年の平均家庭用電気料金は1キロワット時あたり約14セント(約11円)となり、ヨーロッパでは25セント(約20円)近くまで上昇する。「この大きな差はアメリカに有利に働くだろう」とビロル氏は指摘している。
エネルギーの需要と生産が高まると予測される中、温室効果ガスの排出抑制の取り組みについて報告書は悲観的な見方を示している。エネルギーに関連する二酸化炭素排出量は2011年の31.2ギガトンから2035年には37ギガトンに増加、平均気温の長期的な上昇幅は3.6度になると予測されている。
2009年の国連気候変動枠組条約第15回締約国会議(COP15)で留意されたコペンハーゲン合意では、地球の気温上昇を2度以内に抑えるという科学的見解を各国は認識したものの、温室効果ガス排出削減に関する世界的な合意は得られなかった。』